中国ドラマで目にする華やかな後宮。皇后を中心に数多くの妃や側室たちが存在しますが、それぞれの地位や呼び名をご存知ですか?
唐王朝は秦漢時代よりも後宮制度を大きく発展させました。後宮では皇后を頂点に多くの側室や女官・侍女たちが働いています。
その複雑な序列は後の中国王朝や朝鮮、日本にも大きな影響を与えました。
この記事ではドラマを見る上で知っておきたい唐王朝の側室たちの称号と階級についてわかりやすく解説します。
ドラマを見るときの参考にしてくださいね。
中国 皇帝の正室
皇后
皇后は皇帝の正妻。皇后はたった一人しかいません。
なぜ皇后が必要だったの?
古代中国では、世の中は「陰」と「陽」という二つの力がバランスをとって成り立っていると考えられていました。
皇帝が「陽」の象徴であるのに対し、皇后は「陰」の象徴。皇帝が臣下を束ねるのと同じで、皇后は後宮を束ねる役目があります。側室や侍女たちの頂点に立つ存在です。
つまり、夫婦が揃って初めて世の中がうまくいくという考え方です。
性質の違うエネルギーのバランスでこの世はできていると考えるのが「陰陽思想」。そこで王朝には皇帝と皇后が存在しないとバランスがとれないと考えるので。皇帝が存在すれば皇后は必ず存在します。
「陰陽思想」では男が陽・女が陰とされ。皇帝が男の代表で陽の気を、皇后が女の代表で陰の気を象徴すると考えられました。
陰陽思想の「陽」と「陰」はエネルギーの性質の違いを表現したもの。陽は活発・外向きなエネルギー、陰が穏やか・内向きなエネルギーです。両方のバランスがとれていないと何事もうまくいきません。
陽が良くて陰が悪いという意味ではありません。
皇后の役割
皇后の役割は大きく分けて二つあります。
- 皇帝の妻として: 家族のまとめ役として、皇帝を支えること。
- 後宮の統率者として: 皇后の下にいるたくさんの奥さんたちや侍女たちをまとめ、後宮という大きな組織を運営すること。
なぜ皇后は特別なの?
皇后は「妻」というだけでなく国の象徴のような存在でした。そのため皇后には他の側室よりもはるかに大きな責任が求められました。
皇后の呼び名
皇后のことを「中宮」や「正宮」と呼ぶこともありました。これは皇后が住む宮殿が宮の中心にあったことからきています。
皇后はいつもいるとは限らない
後宮では皇后を中心にたくさんの妃や側室たちがいるイメージがありますが。実は唐や清の時代には皇后がいない時もありました。
最初の正妻が亡くなったらそのまま、次の皇后は選ばないという皇帝もいます。
「え、皇后がいなくても大丈夫なの?」って思いますよね。
漢民族王朝では先ほど紹介した陰陽五行説を気にするので皇帝と皇后がそろってこそ国がうまくいくと考えていました。
唐や清のように他の民族が作った王朝になると、この考え方が必ずしも当てはまらないようなのです。
なぜ皇后を決めないの?
皇后を決めない理由は次のようなものがあります。
- 政治的な理由: 外戚の勢力を抑えるため、あるいは特定の勢力を牽制するため。
- 皇帝の個人的な意向: 皇后は最初の妻だけで十分と考えている。他に皇后にしたいほど好きな女性がいない。
- 既に後継者がいる:後継者になる人が決まっている場合。新しい皇后が子を生むと問題になるのであえて決めない。
- 民族的な慣習: 異民族は陰陽思想にこだわらない。
- 武則天の出現を警戒:唐の場合、第二の武則天が出現するのを警戒して、あえて皇后を決めない皇帝もいました。
皇后がいなくても大丈夫?
皇后がいなければ誰が後宮を仕切るのかというと、皇太后や貴妃(清朝なら皇貴妃)といった人がトップになることが多かったのです。
つまり、唐や清の後宮は漢民族の王朝とはちょっと違って、もっと流動的で、皇帝の考え方や政治的な状況によってコロコロ変わるものなんですね。
ドラマを見る時のポイント
- 皇后がいるかいないか:皇后がいない場合、後宮の力関係はどう変わるのか?
- 皇太后や貴妃の役割:皇后がいないとき、彼女たちはどんな役割を担うのか?
- 民族的な背景:民族によって后宮の考え方や習慣が違うかもしれません。
これらの点に注目してドラマを見ると、より深く后宮の世界を楽しめるかもしれませんね。
次は側室の紹介です。
最初は側室の数は少なかった
漢の時代の最初には皇后以外の側室はみんな「夫人」と呼ばれていました。その後、称号が増えたり減ったりしています。
一般人の場合だと夫人は正妻の意味です。
皇帝だけは皇后の下に夫人がきます。それだけ皇后は特別な存在なのです。
隋王朝の初期。皇后・独孤伽羅が生きていた時代は行き場のない女性を保護するなどの理由がない限りは後宮に側室を入れませんでした。そのため側室に階級はありません。
独孤伽羅の死後。隋文帝・楊堅や煬帝・楊広は少しずつ側室の数や階級を増やしました。
隋唐の側室:四夫人
隋唐時代の側室の最高位が「妃」です。
妃にも順番がある
唐では側室の最高ランクが「四夫人」。「四妃」ともいいます。
貴妃、淑妃、徳妃、賢妃
それぞれ一人ずつ任命します。
品階では差はありません。
身分は同等とされますが。実際には
1:貴妃、2:淑妃、3:徳妃、4:賢妃の順番があります。
四夫人の中では貴妃が一番偉いです。皇后がいないときは貴妃が皇后の代役を務めます。
座る順番や場所を決める時などで順番が必要なときは貴妃、淑妃、徳妃、賢妃の順に行います。
唐になって側室の最高ランクは四夫人(貴妃、淑妃、徳妃、賢妃)になりました。
同じ称号の人が同じ時期に二人以上存在することはありません。(貴妃が2人いるなんてことはありません)。
称号を持つ人が亡くなったときは新しく任命されます。
唐で最も有名な側室といえば「楊貴妃」。玄宗皇帝の王皇后は途中で廃されその後は皇后はいません。楊貴妃は後宮で最高位にいた人です。
九嬪
嬪は妃に継ぐ地位の側室。
隋の時代・独孤伽羅死後に側室の数が増やされ「嬪」のランクが作られました。
唐の時代には最大9人の嬪が任命されました。
それぞれ
昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛
という称号が与えられす。
ひとつの称号につき一人ずつ任命するので嬪は9人が定員です。
漢の時代に作られたとされる「周礼」には理想の後宮は「一后、三夫人、九嬪、二十七世婦、八十一御妻」と書かれています。古代中国の数秘術「易経」で縁起のいい数とされる、1、3、9、27、81にあわせています(3の倍数)。
周礼は法律ではなく、理想を書いただけの書物。実際の制度とは違います。
ですが王朝によっては周礼を根拠に9つの嬪が設けられることがありました。
世婦(せいふ)
婕妤・美人・才人をあわせて世婦といいます。
それぞれ定員が9人で27世婦
婕妤(しょうよ)
定員は9人。
漢の時代、側室は夫人だけでしたが。漢の武帝の時代に「婕妤」という称号が作られました。その後、皇帝や王朝によって婕妤があったりなかったりします。「婕」は(皇帝の)恩恵を受ける。「妤」は(皇帝を)助ける。という意味があります。
唐では「嬪」の下のランクに「婕妤」を設けました。
唐王朝以後も「婕妤」の地位はありました。清王朝では廃止になりました。
美人
古代中国や越国(ベトナム)で側室に使われた称号。婕妤の下、才人の上。漢の時代から魏の時代にかけて側室の称号として使われるようになりました。
唐では定員は9人。
中国の文献で◯◯美人と書いてあっても褒め言葉や愛称で「美人」を使ってるときもあるので、称号なのかよくわからないこともあります。
才人
女官の称号。
側室の称号も兼ねます。
定員は9人。
才人=皇帝の側室とは限りませんが、その権利はある。というか寵愛を受ける可能性はあります。
武則天が宮中に入ったときは太宗・李世民の才人でした。
御妻(ぎょさい)
宝林・御女・采女をあわせて御妻といいます。
定員はそれぞれ27人、あわせて81御妻。
宝林
定員は27人
才人の下の側室の称号。隋煬帝の時代に作られました。
御女
品階:正七品
宝林の下、采女の上。
古代中国の理想の制度を書いた「周礼」を根拠に作られた称号。
もともとは「女御」といいます。
隋文帝の時代に称号を作りました。でも皇后の独孤伽羅が側室をもつのを許さなかったので実際に任命されることはありませんでした。隋煬帝の時代から任命されるようになりました。
唐では定員は27人。
日本の宮中用語で「女御(にょうご)=中宮の下の地位の側室」の語源になった言葉。
采女
最下級の側室。または女官の称号。臣民の娘から選ばれることが多かったので「採女」と呼ばれ、「采女」になりました。「采」には「いろどり」の意味もあります。この地位になると皇帝に会える機会もあまりありません。
唐では定員は27人
王朝によっては無位のこともありますが。唐では「正八品」でした。
日本の宮中用語で侍女を意味する 采女(うねめ)の語源になりました。
いつも全員揃っているわけではありません
ここに書いたのは規則上の定員。どの時代もすべての階級の側室が揃っているわけではありませんし、皇后がいない時代もあります。定員より増えることはありませんが、皇帝の好みや方針で定員より少ないことはあります。
まとめ
唐の皇帝には皇后が必ず一人存在し、後宮を統率しました。
皇后の下には貴妃、淑妃、徳妃、賢妃といった四夫人、昭儀、昭容などの九嬪、婕妤、美人、才人といった世婦、宝林、御女、采女といった御妻が置かれました。皇后の地位が最も高く、順に地位が下がっていきます。
これらの称号は時代や皇帝によって変わることがあったり定員が決まっているものも。ドラマを見るとき、これらの情報を参考にしながら登場人物たちの関係性や宮中での立ち位置に注目してみると、より深く楽しめるかもしれませんね。
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