中国ドラマ「後宮の涙(陸貞傳奇)」に登場する蕭喚雲(しょうかんうん)は、その複雑な生い立ちと高湛への歪んだ愛や陸貞や敵への憎しみが印象的なキャラクターです。
彼女はかつて中国南部に存在した梁の皇帝の娘として生まれ永世公主の称号を持ちました。初恋の相手である北斉の皇子・高湛への愛と政略結婚で嫁いだ高演への複雑な感情の間で揺れ動きます。
梁に永世公主は実在しますが、蕭喚雲は実在した永世公主そのものではありません。歴史上の複数の人物の要素を組み合わせたものと考えられます。
この記事では蕭喚雲の生涯を辿りながら、彼女の人物像の背景にある歴史的な要素について考察していきます。
蕭喚雲(しょうかんうん)の生い立ち
蕭喚雲は、かつて中国南部にあった梁(りょう)の皇帝の娘として生まれました。
称号は 永世公主(えいせいこうしゅ)。
ところが梁は滅亡寸前。北斉の傀儡国家になっていました。12歳のとき蕭喚雲は人質として北斉にやってきて、高演や高湛とともに育てられます。
蕭喚雲は高湛のことが好きになり。高湛にとっても初恋の相手です。二人は愛し合い、将来の結婚を約束していました。
でも蕭喚雲は婁昭君と皇帝 によって高演との結婚が決まりました。
しかも祖国の梁は陳に滅ぼされてしまいます。
愛と憎しみの間で
蕭喚雲は愛する人と結ばれず祖国も滅ぼされた彼女は北斉の宮廷で深い孤独と悲しみを抱えながら生きることになりました。
心ない人からは周囲からは滅んだ国の女と言われ。婁昭君との関係はよくありません。そのため孝昭帝 高演の妻でありながら皇后になる事ができず「貴妃」になってしまいます。
それでも高演の配慮で「鳳印」を与えられ皇后の代理として後宮をまとめています。
高湛の妻の座を狙う
高演は蕭喚雲の立場を尊重しているようですが、蕭喚雲は高演が好きではありません。今でも高湛への愛を忘れられない蕭喚雲は病弱な高演が早く死んで高湛の妻になることを夢見ています。
北斉は遊牧騎馬民族だった鮮卑人が作った国。蕭喚雲は鮮卑に夫兄弟婚(レビラト婚ともいいます)があるのを知っています。
蕭喚雲はその仕組を利用して高演の死後、高湛と結婚しようと考えています。
夫を亡くした女性が夫の兄弟や後継者と結婚する習慣。遊牧民族に多い習慣。結婚は家や部族の同盟と考える遊牧民では同盟維持のために行われます。
嫉妬と策略
ところが高湛が陸貞(りくてい)に惹かれていく姿を見て、激しい嫉妬に苦しみます。
蕭喚雲は皇后としての権力を使い陸貞を陥れようとします。彼女は様々な策略を巡らせ、陸貞を宮廷から追い出そうとしました。それによって高湛も傷つけてしまいます。
でも陸貞は持ち前の賢さと勇気で困難を乗り越えていきます。
心の変化と悲劇的な最期
物語が進むにつれて蕭喚雲の心にも変化が現れます。
彼女は高演の優しさに触れ、次第に彼を受け入れるようになっていきます。
やがて皇后になり、高演との間に子供を授かります。
しかし彼女の幸せは長くは続きませんでした。宮廷内で起こった反乱によって彼女は命を落としてしまったのです。
蕭喚雲は実在するの?
中国ドラマ「後宮の涙(陸貞傳奇)」に登場する蕭喚雲(しょうかんうん)は実在の人物なのでしょうか?
実は「蕭喚雲」という名の北斉の皇后はいません。架空の存在です。
でもモデルになった人はいます。
梁の皇女・永世公主 蕭玉婉
蕭喚雲は梁の皇帝の娘。永世公主です。
歴史上。梁には永世公主という称号の女性がいました。梁の初代皇帝 武帝 蕭衍(しょう えん)の娘 蕭玉婉(しょう ぎょくえん)です。
蕭衍(しょう えん)は「琅琊榜」の梁皇帝のモデルにもなった人物です。
でも蕭玉婉は北斉の皇族とは結婚していません。
同じ梁の重臣・ 謝朓の息子・謝謨と結婚しています。ところが武帝 蕭衍は謝謨を嫌ったので、蕭玉婉を離縁させ、王志の息子の王諲と再婚させてしまいます。
謝謨は悲しんで蕭玉婉に漢詩の手紙を送り、蕭玉婉もその手紙を父に見せましたが、武帝 蕭衍は蕭玉婉と謝謨の再婚は許しませんでした。
当時の北斉と梁は戦争をしていたのでとても結婚はできません。北斉と梁の政略結婚はなかったのです。
高演の妻 元皇后
蕭喚雲は北斉の皇帝 高演(こうえん)の妻です。
それなら史実の高演の妃嬪たちにモデルはいるのでしょうか?
高演の皇后は元氏(げんし)という女性でした。元氏は北魏(東魏)の皇族出身。高演との間には高百年という息子をもうけました。
ドラマの蕭喚雲も皇后として高演との間に子供をもうけるものの、悲劇的な最期を迎えるという点で、元氏と共通しています。
しかも今は滅んだ国の皇族の娘という立場も似ています。ただし皇帝の娘ではありません。
ドラマでは蕭喚雲は結婚する前は高演よりも高湛と愛し合っていたという設定。ドラマの設定だと敵国同士の皇族が愛し合うことになるので「いつ出会ったの?」と疑問が生まれますし、設定には無理があります。
でも北斉は北魏(東魏)の臣下だった高洋が下剋上を起こして建国。二人が若い頃に出会うことは可能です。
元皇后は高演とは仲が良かったのですが、高湛とは仲は悪く。高湛の即位後は幽閉され。高百年は高湛に殺害されてしまいます。その後は恨みを抱えながらの生活だったでしょう。
開放されたのは北斉滅亡後でした。元氏は北斉を滅ぼした北周に連行されますが、北周の宰相だった楊堅によって開放され。山東で暮らしました。
その点はドラマの蕭喚雲と高湛の関係とは違います。
また高演には李氏(りし)という側室もいました。李氏は高演の寵愛を受け、高演との間に娘をもうけました。
ドラマの蕭喚雲は高演の寵愛を受けながらも、高湛への愛を忘れられないという複雑な感情を抱えています。この点は李氏とは違います。
蕭喚雲は架空の可能性が高い
これらの史実を考えると、蕭喚雲は、誰か一人の人物がモデルになったというより、高演の后妃たちや他の歴史上の人物の要素を組み合わせた架空人物の可能性が高いです。
ドラマでは蕭喚雲は亡国の王女という設定ですが、これは彼女の悲劇性を強調するためのもの。史実とは違います。
また彼女と高湛との愛憎劇もドラマを盛り上げるための作り話です。
まとめ
蕭喚雲の生涯は愛と憎しみ、そして悲劇に彩られたものでした。
彼女は実在の人物ではありませんが、その人物像は歴史上の複数の人物の要素を組み合わせたものと考えられます。
蕭喚雲のモデルになったのは梁の永世公主 蕭玉婉。高演の妃たちと考えられます。
ドラマでは亡国の王女という設定が彼女の悲劇性を際立たせていますが、史実とは異なる点も多く見られます。高湛との愛憎劇も、物語を盛り上げるためのフィクションと言えますね。
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