ココテムル（王保保）明の洪武帝も認めたモンゴルの名将軍

ココテムル（拡廓帖木児）は14世紀のモンゴル（北元）の将軍。

王保保という漢名ももっています。

様々な戦場で活躍した元（モンゴル帝国）の将軍です。

しかし軍閥の争いや朝廷の権力争いに巻き込まれ、皇帝トゴンテムルから疎まれ官職を剥奪されたこともあります。崩壊しつつあった元軍の中で奮闘して明に大きな打撃を与え。明建国の功労者で軍神と呼ばれた徐達に大きな敗北を味わせたこともあります。

明の皇帝 洪武帝が「天下奇男子（世界の素晴らしい男）」と呼び、明に恐れられた人物でした。

史実のココテムル（拡廓帖木児）はどんな人物だったのか紹介します。

ココテムルの史実

どんな人？

名称：ココテムル（拡廓帖木児）

日本では室町時代になります。

ココテムルの家族

ココテムルの生涯

華麗なる家系と養子

ココテムルの父親 サインチダクは、モンゴルの人でしたが中国の中原地方で暮らしており中国の文化にも精通していました。

母親 フェオル・ナイマン氏は有名な武将チャガンテムルの妹。

ココテムルは母の兄チャガンテムルの養子になりました。チャガンテムルはココテムルをとても可愛がっており、彼に多くのことを教えました。

激動の時代を生き抜く

ココテムルが生きていた時代は元が大きく混乱していた時代でした。紅巾軍という反乱軍が各地で暴れ、国が大きく揺れ動いていたのです。ココテムルは養父チャガンテムルとともに紅巾軍と戦い、国を守ろうとしました。

しかし、あるときチャガンテムルは紅巾軍との戦いで命を落としてしまいます。ココテムルは養父の仇を討つため、紅巾軍を相手に激しい戦いを繰り広げ見事勝利を収めました。

永遠のライバルとの対決

その後、ココテムルは別の武将であるボロトテムルと対立。山西省や河北省の支配権をかけた争いを繰り広げました。この二人の争いは長く続き、ココテムルの人生を大きく左右する出来事となりました。

元朝の皇位継承を巡る争い

元朝末期、皇帝トゴンテムルが政治に興味を失い皇太子アユルシリダラが実権を握ろうとしたことから、朝廷内は大きく二つに分かれて争いが起こりました。

太子派と反太子派の対立

• 太子派: 皇太子アユルシリダラを支持する勢力。アユルシリダラが政治手腕を発揮し、国を立て直せるという期待を持っていました。
• 反太子派: 皇太子アユルシリダラを快く思わない勢力。皇帝の側近を中心にアユルシリダラが権力を握ることを警戒していました。

ボロトテムルの介入とココテムルの活躍

この争いに外部の勢力であるボロトテムルが介入。ボロトテムルは、皇帝を立て直すという名目で大都（現在の北京）を攻撃。皇太子アユルシリダラはココテムルの領地である太原に逃れました。

ココテムルはアユルシリダラと手を組みボロトテムルを撃退。アユルシリダラを無事に大都に戻すことに成功します。この功績によりココテムルは朝廷で重要な地位に就きました。

ココテムルの孤立

しかしココテムルは朝廷内で孤立していきます。

• 家柄の問題: 元朝では家柄によって地位が決まることが多く、ココテムルは家柄が低いことから他の貴族から軽視されることがありました。
• 皇太子派との関係: 皇太子アユルシリダラの母である奇皇后はココテムルに命じて皇帝を退位させようとします。しかしココテムルは中立の立場を保とうとしました。そのため皇太子派からも疎まれることになります。

南方への転出

結局、ココテムルは朝廷内で孤立。南方へ赴くことを決意します。アユルシリダラから「河南王」の称号を与えられ、江南地方の反乱鎮圧を命じられました。

ココテムルの苦境と元朝の崩壊

ココテムルは南方で勢力を拡大していた朱元璋を討伐するために河南へと向かいましたが、思わぬ困難に直面しました。

将軍たちの反乱

河南に到着したココテムルは李思齊、張良弼、孔興、脫列伯ら4人の武将に朱元璋討伐を命じました。ところが彼らはいずれも経験豊富で、ココテムルよりも年上でした。特にボロトテムルと共闘経験のある武将たちはココテムルの命令に従うことを拒み、反乱を起こします。

内部分裂と敗北

この反乱を鎮圧するためにココテムルは弟のトインテムルを山東に派遣。自らも陝西へと向かいますが、戦況は芳しくありませんでした。徐州で朱元璋との小規模な戦いに敗れ、その後も反乱軍との戦いに明け暮れることになります。

元朝からの離反

ココテムルと反乱軍の争いは長期化し、元朝は両者に和解を呼びかけますが事態は悪化する一方でした。皇帝トゴンテムルはココテムルを信用できなくなり彼から役職を剥奪し、支配地域を制限します。

最終的な孤立と敗北

結局、ココテムルはすべての役職を剥奪され支配地域も分割されてしまいます。孤立無援となったココテムルは晋寧へと退却します。

明の建国と元朝の滅亡

朱元璋の即位と北伐

元朝が内紛で混乱している隙をついて、朱元璋は南方を統一。1368年に南京で皇帝に即位して明王朝を建てました。そして大規模な軍勢を率いて元への攻撃を開始します。

ココテムルの苦境

一方、ココテムルは内部の反乱に苦しみ元朝からも信頼を失いつつありました。朱元璋の軍が北上してくると、元朝はようやくココテムルの能力に気づき彼に救援を要請します。

しかしココテムルの配下は意見が分かれ救援に消極的な者もいました。

大都の陥落と元朝の北遷

結局、明軍は抵抗を押し切って大都を占領。元朝は大都を放棄して上都（内モンゴル自治区）へと逃れることになります。これにより元朝は長城以南の支配を失い。中国は明王朝の時代へと移り変わりました。

明との戦い

ココテムルの反撃と明の反撃

至正28年（1368年）10月。ココテムルは韓店で明軍を破りました。

ココテムルは韓店での勝利をきっかけに元朝からの信頼を取り戻し、大都奪回を命じられます。

しかし、明の徐達は、ココテムルの本拠地である冀寧を攻撃。ココテムルは敗北を喫します。

ココテムルと元朝

ココテムルは元朝からの援助を求められましたが、上都や応昌の危険性を説き北への退却を勧めます。その後も慶陽の救援や蘭州の包囲など明軍と戦い続けましたが、次第に追い込まれていきます。

徐達との戦い

明は大規模な軍を派遣、ココテムルを攻撃します。ココテムルは安亭で徐達と戦いますが敗北。妻とともに逃亡しました。

明との戦いにおけるココテムルの活躍と元の反撃

昭宗アユルシリダラの即位と明の侵攻

元朝の恵宗トゴンテムルが亡くなり、昭宗アユルシリダラが即位しました。

明はこれを好機と考え元の本拠地 英昌を攻撃。昭宗アユルシリダラは逃亡を余儀なくされました。

ココテムルとの和解と反撃

逃亡中の昭宗アユルシリダラはココテムルと合流。過去の対立を解消して力を合わせ、元朝復興を目指しました。ココテムルは中書右丞相となり復興計画を立てます。

明はココテムルが大きな脅威になると考え大規模な侵攻を開始しました。

しかしココテムルは巧みな戦略で明軍を撃退。特に徐達率いる中央軍に大きな打撃を与えました。東方軍の李文忠も敗北し、明軍の士気は大きく低下しました。

ココテムルの活躍により元朝は明軍を撃退。一時的に勢いを回復させました。昭宗アユルシリダラはココテムルの功績を高く評価し、元朝の復興が近いと確信したほどです。

しかし当時の元の戦力では明に全面戦争をしかけて領土を取り戻す力はありません。

そのためココテムルも大規模な侵攻を行うことは難しく長城沿いで小規模な襲撃を行うにとどまりました。

ココテムルの最期

明実録では宣光5年（1375年、明 洪武8年）8月。ココテムルはハラナハイの宿営地で死亡したとされますが。

宣光6年（1376年）高麗の使者が河南王、中書右丞相ココテムルの書状を受け取っています。

宣光7年（1377年）の高麗からの贈り物の受取先の筆頭に「中書省太師ココテムル」が書かれているのでこの時期までは生きていた可能性が有ります。

宣光8年（1378年）以降は元の朝廷は丞相ハラナハイが最上位に来てココテムルの名前はありません。このころまでにココテムルなくなっている可能性が高いです。

洪武帝とココテムル：互いに認め合った宿敵

明の初代皇帝である洪武帝は元朝の武将ココテムルを「天下の奇男子」と称え、非常に高く評価していました。

これは洪武帝が生涯で3つの後悔として挙げたことからも明らかです。

洪武帝の3つの後悔

1. 元の玉璽を手に入れられなかったこと: 中華王朝の正統性を示す象徴である玉璽を手に入れられなかったことは洪武帝にとって大きな心残りでした。
2. ココテムルを生け捕りにできなかったこと: 強敵のココテムルを戦場で破っても、生け捕りにできなかったことを悔やんでいました。
3. アユルシリダラの消息をつかめなかったこと: 元の皇帝であるアユルシリダラの行方が分からなかったことも洪武帝の心に影を落としました。

なぜ洪武帝はココテムルを高く評価したのか？

• 強大な敵: ココテムルは明王朝を脅かす強大な敵であり、洪武帝にとって最大のライバルの一人でした。
• 卓越した軍事能力: ココテムルは数々の戦で明軍を苦しめ、その軍事能力は非常に高く評価されていました。
• 不屈の精神: 幾度も敗北を経験しながらも、決して諦めずに戦い続けたココテムルの不屈の精神に洪武帝は感銘を受けたのかもしれません。

テレビドラマ

群王時代　2014年、モンゴル　演：巴特包勒德
乞丐皇帝與大腳皇后傳奇　2016年、中国　演：陳燁
倚天屠龍記　2019年、中国　演：孫亦凡
永楽帝　2022年、中国　演：張光北