ドラマ『明蘭~才媛の春~』前半に登場する年老いた皇帝は、歴史上の皇帝をそのまま再現した人物ではありません。史実の北宋第4代皇帝・宋仁宗(趙禎)を土台にしはいますが、原作小説とドラマ独自の脚色が重なった明蘭版の仁宗です。
でもドラマでは皇帝の名前は出てきません。なので明蘭の皇帝は仁宗の晩年をモデルにした架空の皇帝」と考えとよいでしょう。
この記事で分かること
- 明蘭前半に登場する皇帝は「実在そのまま」ではなく宋仁宗モデルで描かれていること
- ドラマ前半の皇帝像と史実の宋仁宗の共通点と違い
- なぜ明蘭ではこのような皇帝像になっているのか
ドラマ全体のあらすじやキャスト、時代背景をまとめて確認したい場合は、明蘭のあらすじ一覧記事もあわせて見てください。
『明蘭~才媛の春~』全体のあらすじと見どころまとめ
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明蘭の皇帝は実在する?前半の老皇帝のモデル
「明蘭」は北宋時代を舞台にしています。ドラマ前半に登場する年老いた皇帝は、史実の一人の皇帝をそっくり写した存在ではありません。劇中で描かれている状況や周囲の事情は北宋中期の宋仁宗晩年とよく似ていますが、性格や年齢のイメージ、物語上の役割には脚色が入っています。
- 舞台となる王朝は科挙で登用された士大夫が政治を担い、北方の強国との国境問題を抱える
- 在位期間が長く、物語の時点では治世の後半に差しかかっている
- 皇子が次々に亡くなり、跡継ぎ問題に苦しんでいる
- 宗室から養子を迎えて後継を立てる必要がある
こうした設定は宋仁宗の晩年と重なる部分が多く「仁宗の時代を意識した老皇帝」なのは間違いないでしょう。でも仁宗自身の名前は出て来ず、新帝の名前も「趙宗全」と完全な創作名になっているため、「仁宗本人」ではなく「あくまで仁宗を下敷きにした架空の皇帝」と見るのが妥当です。
ドラマ前半での皇帝像:怒りと不安が同居する老皇帝
次にドラマ前半で描かれる皇帝像を振り返ってみます。
前半の皇帝は長く国を治めてきた老皇帝として登場しますが、一言で「穏やかな名君」と言い切れる人物ではありません。印象に残っているのは次のような面です。
- 臣下の言動に激しく怒り、声を荒らげる場面が何度もある
- 自分の権威を傷つけられたと感じると、臣下や後宮の人物の幽閉を命じる
- 処分の仕方が重く、周囲の者たちが顔色をうかがう空気がある
こうした姿が描かれるため「温厚で寛容な皇帝」というより、追い詰められたときにきつい決断に踏み切る怖さを持った人物として映ります。
一方で、皇帝自身が不安や迷いを抱えていることも前半から強調されています。
- 男子の多くが早く亡くなり、跡継ぎがいないことを嘆く
- 宗室の中から誰を後継に選ぶのか、決めきれずに悩む
- 国境問題や財政負担に気を病み、側近や后妃に不満をぶつける
怒りっぽさと年老いた皇帝ならではの不安定さ。その両方が同時に見えてしまうところが前半の皇帝像の特徴と言えます。
史実の宋仁宗との共通点と違い
前半の皇帝は史実の宋仁宗とどこが重なり、どこが違っているのでしょうか?
共通点は次のような点です。
- 幼くして即位し、長く在位した末期の皇帝である
- 在位の後半には男子に恵まれず、皇子が早世を繰り返した
- 宗室から趙曙(のちの英宗)を迎えて後継を立てることになる
- 遼・西夏など北方の異民族政権との関係に悩まされ続けた
このあたりは明蘭の設定とかなり近く、ドラマ側が「仁宗晩年の政治状況」を参照しているのは明らかです。
一方、性格や振る舞いの描き方には大きな違いがあります。
史書の中の宋仁宗は基本的には柔らかく、人の意見をよく聞く皇帝として記録されています。
もちろん全ての判断が高く評価されているわけではありませんが、「何かあればすぐに激怒し、幽閉を乱発する君主」というイメージとは違います。
これに対して明蘭前半の皇帝は、
- 怒りの爆発が分かりやすく描かれる
- 臣下を幽閉する
というように感情の起伏がはっきりとした人物として描かれています。ここには、ドラマならではの脚色がかなり入っていると思った方がよいでしょう。
なぜ仁宗がモデルなのに怒りっぽい皇帝になったのか
なぜ明蘭では皇帝がこのような性格で描かれているのでしょうか。考えられる要因は大きく二つあります。
一つは原作小説の世界観です。原作『知否?知否?應是綠肥紅瘦』は明代風の要素も取り込んだ架空王朝を舞台にしています。そこには明以降の専制的な皇帝像や「怒りやすく、絶大な権力をふるう皇帝」のイメージも重なっています。
ドラマ版は時代設定を北宋にしていますが、原作の雰囲気を完全には切り離していません。
そのため、
- 政治状況や制度面は北宋中期=仁宗時代に近づける
- 人間像は原作の皇帝像や後世のイメージも混ざっている
という中間的な皇帝になっているようです。
もう一つはドラマ全体の事情です。『明蘭~才媛の春~』は皇帝や後宮が舞台のドラマではありません。貴族・官僚の家に生きる女性たちの物語です。皇帝はあくまで「彼女たちの運命を左右する、遠くて巨大な存在」として登場します。
そのため皇帝があまりにも穏やかで受け身な人物だとドラマの緊張感が出ません。幽閉や処罰の決定が重いからこそ、各家が皇帝の意向を気にし派閥争いや縁組に慎重にならざるをえなくなります。
- 皇帝の一言で明蘭たちの生きる足場が揺らぐ
- 怒りや迷いが家々の争いや縁談にも影響してくる
こうした物語上の役割を持たせるために前半の皇帝は「仁宗を土台にしてはいても原作とドラマ演出の都合で、仁宗とは性格の違う老皇帝」として描かれていると考えられます。
燕雲十六州と顧廷燁の理想
ドラマでは「燕雲十六州」というキーワードも出てきます。
燕雲十六州は五代十国の混乱期に契丹(遼)へ渡った地域で、北宋にとって長年の問題になった土地です。史実でも「奪回すべきか」「和平を優先すべきか」をめぐって議論が続きました。
明蘭ではこの問題が次のように扱われています。
- 奪回へのこだわりを強く語るのは主に顧廷燁
- 朝廷全体で具体的な再奪還計画が動いている様子はあまり描かれない
顧廷燁にとって燕雲十六州は「自分たちの世代が解決すべき宿題」であり「まだ果たされていない理想の象徴」です。
それに対して老皇帝は現実的な国力や宮廷内のバランスを知り尽くした立場から軽々しく戦争には踏み出せません。
ここにも若い武人と長く治世を担ってきた老皇帝の視線の違いが表れています。
顧廷燁の科挙を不合格にした皇帝
史実のエピソードとつながる場面もあります。
たとえば第13話では顧廷燁は科挙の答案の中で、花街通いで問題視されている楊無端をあえて擁護する文章を書き、皇帝の逆鱗に触れてしまい、顧廷燁は50年間科挙を受けさせないと命令を出します。
花街で遊び世間からは低俗と見なされる文人をかばうような人物は皇帝からすれば「勘違いした若造」に見えたはずです。
これは史実の宋仁宗と詞人・柳永の関係を思わせます。柳永は花街に通い、庶民にも親しまれる艶めいた詞を数多く作った人物ですが、仁宗はその“低俗さ”を嫌い、科挙で何度も落第させたという逸話が伝わっています。
柳永がかなりの年齢(説によっては四十代後半)になってようやく合格を許された、という話も有名です。
ドラマの楊無端はこの柳永をモデルにした人物だと考えられます。そして、花街に入り浸る文人を好ましく思わず、科挙の場では厳しく線引きしようとする皇帝の姿は、史実の仁宗像と重なる部分が少なくありません。
怒りっぽくデフォルメされた場面が多い一方で、こうした「文人との微妙な距離感」には仁宗らしい所もきちんと残されています。
後半に登場する若い皇帝について
ドラマの後半に入ると前半の老皇帝とは違う世代の新しい皇帝が即位します。こちらは即位したての若い皇帝として描かれ、明蘭や顧廷燁たちと関わる場面が多くなります。
新帝・趙宗全のモデルや、史実の誰と対応させて考えられるのかについては、別の記事であらためて整理する予定です。このページではあくまで「前半の老皇帝」を中心に扱い、新しい皇帝については軽い紹介にとどめておきます。
まとめ:明蘭の前半の皇帝は仁宗がモデルの脚色された皇帝
ここまでを整理すると明蘭前半に登場する皇帝は次のようにまとめられます。
- 劇中の皇帝は北宋の仁宗がモデル
- ただし実在の仁宗そのものではない。怒りやすさや幽閉の命令の出し方などは、原作小説やドラマ演出の影響を受けた脚色がと強い
- 舞台となる王朝や政治状況、跡継ぎ問題などは、北宋中期の宋仁宗晩年とよく重なる
つまり明蘭の皇帝は北宋の宋仁宗をモデルにはしているが、原作とドラマの都合で性格や行動を強調した皇帝といえます。
史実の宋仁宗がどんな皇帝だったのか、年表や政策、評価なども含めて知りたい場合は、こちらの記事で詳しくまとめています。
宋仁宗(趙禎)の生涯と治世
https://historicalfact.net/zhao-zhen/
また、老皇帝の背景にある北宋という王朝そのものについては、別途、王朝の成り立ちや特徴を整理した記事があります。明蘭の世界観をより深く味わうための参考にしてください。
北宋とはどんな王朝だったのか
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明蘭全体のあらすじや、他の考察記事へのリンクは、ハブ記事からまとめて確認できます。
『明蘭~才媛の春~』全体のあらすじ・見どころまとめ
https://historicalfact.net/meiran-arasuji-summary/
前半の皇帝がどこまで史実に近く、どこからがドラマならではの創作なのかを意識しながら見返すと、同じ場面でもまた違った面白さが見えてくるはずです。

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