ドラマ『明蘭~才媛の春~』を見ていると、「盛明蘭って史実にモデルがいるの?」と気になると思います。
結論から言うと
盛明蘭に史実上のモデルはいません。完全な創作キャラクターです。
ただし「完全な作り話だから歴史とは関係ない」というわけではなく、原作小説の設定や、中国文学・北宋の社会制度をうまく取り入れた結果、「史実にはいないけれど、当時いてもおかしくない女性像」として作られているのがポイントです。
この記事でわかること
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原作小説における明蘭の“正体”
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『紅楼夢』の賈迎春との対比(逆モデル)
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史実や文学に見られる「明蘭タイプ」の女性たち
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北宋社会の中で見たときの明蘭像
を整理しながら「明蘭のモデル」をわかりやすく消化回していきます。
「明蘭」のあらすじを知りたい方は 明蘭才媛の春 あらすじ【ネタバレあり】をご覧ください。
明蘭は実在しない。原作小説は転生ヒロイン
ドラマ版『明蘭』の直接のモデルになっているのは小説『知否?知否?應是綠肥紅瘦』です。
この原作は現代中国で民事裁判所に勤めていた女性・姚依依(よう・えいえい)が、古代世界に転生する物語です。物語の設定上は「明朝をモデルにした架空王朝」ですがドラマ版では北宋風にアレンジされています。
ある日、土砂崩れに巻き込まれた姚依依が目を覚ますと、そこは古代世界。
彼女は盛家の六番目の娘・盛明蘭として生まれ変わっていました。
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生みの母はすでに死亡
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父は「庶子」である明蘭をあまり顧みない
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味方も後ろ盾もいない「庶女」
という非常に不利な状況から物語は始まります。
でも幼い明蘭の身体には大人の姚依依の意識が入っています。彼女は「古代で庶女として生き残るのは、想像以上に危険だ」と強い恐怖を覚えます。
ここから外側は控えめで従順、内側では冷静に計算するヒロインとしての明蘭像が形づくられていきます。
小説版の明蘭(姚依依)には次の特徴があります。
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祖母・盛老太太は明蘭の賢さを見抜き、孫を引き取って教育する
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明蘭は周囲には「おとなしい良い子」を演じる
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心の中では状況を観察し「どうすれば生き残れるか」を常に考えている
ドラマ版の明蘭の「柔らかい笑顔の裏にある鋭い観察力」や「感情より現実を優先する判断」は、この“転生ヒロイン・姚依依”の設定から来ているのです。
明蘭の 逆モデル『紅楼夢』の賈迎春とは?
原作小説の中で明蘭(姚依依)は自分に「紅楼夢の賈迎春のようにはなりたくない」とこう言い聞かせる場面があります。ここから賈迎春は「明蘭とは違うキャラ」として設定されていることがわかります。
『紅楼夢』とは?
『紅楼夢』は清朝時代に書かれた長編小説。名門・賈家を舞台に貴族社会の栄華と没落、そこで生きる女性たちの運命を描いた物語です。
登場人物が多く、一人ひとりの人生が細かく描写されているため、「古典に描かれた中国女性像」を知るうえで欠かせない作品です。
その中に登場するのが賈迎春(か・げいしゅん)です。
賈迎春:従順すぎたために悲劇を招いた娘
賈迎春は名門の娘ですが、
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非常におとなしく、自分の意見をほとんど言えない
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家の都合に逆らえず流されていく
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暴力的な夫に嫁がされ、結婚後も反抗できない
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最終的には悲惨な最期を迎える
という「受け身でいることしかできない女性の悲劇」の代表のような存在です。
明蘭にとっての“反面教師”
現代で法律の世界にいた姚依依は転生後にこう考えます。
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力のない庶女は、家や男の都合に流されるだけの存在になりやすい
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賈迎春のように「何も決められないまま不幸な結末」を迎えるのだけは避けたい
つまり明蘭にとって賈迎春は、
「見習うモデル」ではなく「絶対にああなってはいけない反面教師」なのです。
賈迎春と明蘭の違い
二人を比べると明蘭がどんな姿勢で生きようとしているのかが見えてきます。
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性格
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賈迎春:従順で受け身
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明蘭:控えめに見せつつ、内心では冷静に判断する
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立場への向き合い方
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賈迎春:家の決定に従うだけ
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明蘭:家のルールを理解し、自分に有利になるように使う
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婚姻
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賈迎春:ほぼ強制的に決められてしまう
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明蘭:自分と家族を守るために条件を計算して選ぶ
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現代人の知識と賈迎春という「弱さの象徴」を知っているからこそ、明蘭は静かに・賢く・しぶとく生き抜こうとするのです。
ドラマだけを見ていると、こうした明蘭の賢さや紅楼夢との対比の部分が描かれていません。そのため明蘭の冷静さや慎重さが「なぜそこまで?」と感じられるかもしれませんが、原作ではきちんとした背景が用意されているのです。
史実の 明蘭に似た女性たち
繰り返しになりますが、盛明蘭には「この人がモデルです」と言える実在人物はいません。
ただし「もし明蘭のような女性が北宋にいたとしたら?」という目線で見ると、似た雰囲気の女性像を、史実や文学の中からいくつか拾うことができます。
宋代の家政と経済を握った妻・母たち
宋代の士大夫階層(高級官僚・知識人階層)では、妻や母が家政・経済を大きく担っていました。
史料からわかる特徴を挙げると、
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嫁入りのときに持ってきた嫁資(持参金・土地・財産)を自分名義で保有できる
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店や貸地などの運営、家計管理を引き受ける
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夫が地方勤務や左遷で家を空けるあいだ、家産の管理・使用人の統率を行う
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本妻が亡くなった場合、妾室や未亡人が実質的な「家長」となることもある
といった形で、かなり実務的な権限を持つ女性が確かに存在していました。
特に、
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夫が長期不在のとき
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生母を亡くした子どもたちの教育を任されるとき
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一族の財産を守る立場になった未亡人
といったケースでは、女性が「家の中心」として振る舞う姿が多く記録されています。
ドラマの明蘭も、
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表向きは控えめで礼儀正しい
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実際には家の財政・人事・嫁ぎ先とのやり取りなど「家政の要」を握る
という立ち位置にいるため、「名も残らなかったが、どこの士大夫家にも一人はいたであろう有能な妻・母」に近いイメージのキャラクターだと言えるでしょう。
文学作品の中の「明蘭に似たヒロイン」
史実だけでなく、他の文学作品にも「明蘭に似た通じる女性像」が描かれています。
『紅楼夢』の王熙鳳:家政のプロだが、行き過ぎた“剛腕”
『紅楼夢』に登場する王熙鳳は、賈家の家政を一手に握る凄腕の女性です。
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計算高さ
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人心掌握のうまさ
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迅速な決断力
といった点では明蘭以上の「仕事のできる女当主」です。
しかし熙鳳は、強さが歯止めを失い、最終的に自分や一族を追い詰めてしまうという悲劇的な道をたどります。
明蘭との違いはブレーキがあるかどうかです。
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明蘭は祖母の教えを守り、礼節や体面を最優先する
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相手を追い詰めすぎないラインを見極める
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家族が生き残れる「最低限の勝ち」で手を引く
この「引き際を知っている冷静さ」が明蘭と王熙鳳の違いです。
『趙盼児風月救風塵』の趙盼児:恋に溺れず、自分の頭で生きる
もう一人、明蘭に似ていると感じられるのが、元朝時代の雑劇『趙盼児風月救風塵』のヒロイン趙盼児です。ドラマ『夢華録』の原案にもなった作品です。
趙盼児は妓楼で働くベテランの妓女。若い芸妓・宋引章の「義理の姉」のような存在です。
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花街の厳しい現実
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男たちの身勝手さ
などすべて身をもって知っている現実主義者で、妹分や友人から頼りにされる「姐さん」です。
物語の中心は、宋引章と放蕩息子・周舎の結婚。
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趙盼児は最初から周舎を「夫にしてはいけない男」と見抜いて忠告する
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しかし恋に溺れた宋引章は忠告を聞かない
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結婚後、宋引章は暴力と冷遇に苦しみ、結局 趙盼児のもとへ逃げ帰る
ここから、趙盼児は知恵を総動員して宋引章を救い出します。
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周舎を逆に利用し、「離縁状(休書)」を書かせる
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裁判の場では、男の甘言ではなく「紙の証拠」の重さを冷静に説く
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宋引章を元の恋人のもとに戻し、周舎には罰が下るよう仕向ける
ここで描かれているのは、
「色香」や「涙」で男にすがる女」ではなく、それらすら武器として使いながら仲間を救い出す女性です。
明蘭と趙盼児の共通点
二人の共通点は、
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恋に人生を丸ごと預けない
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男の「愛している」という言葉より、自分の判断と条件を優先する
という部分です。
明蘭も斉衡との縁談が立ち消えになった経験を通して、
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身分や家格の前では「好き」という感情だけでは何も動かせない
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恋に全てを賭けるのはあまりにも危険だ
と思い知ります。
その結果「恋に溺れる娘」から「自分の頭と手で生きる女」へと舵を切るのです。
趙盼児も明蘭も恋そのものを否定しているわけではありません。
でも、
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まず「生き延びる条件」を冷静に見極める
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男の誓いではなく、自分の判断で未来を選ぶ
という意味で「恋に飲み込まれないタイプのヒロイン」としてよく似ています。
明蘭の境遇(庶女)は北宋社会のリアル
盛明蘭は創作上の人物ですが、「庶女として生きる明蘭」の境遇そのものは北宋社会のリアルを表現しています。
北宋社会を支えた「嫡庶制度」
北宋の上流社会では正妻の子(嫡子)と側室の子(庶子)の区別が非常にはっきりしていました。
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嫡出の子どもが家督や有利な縁談で優先される
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庶子は教育や結婚で後回しにされがち
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家の中でも冷たく扱われることが珍しくない
という仕組みです。
明蘭が「庶女だから」と軽んじられる描写は、当時の価値観では自然な設定です。むしろドラマの表現はまだマイルドな方です。
生母を失った庶女の孤立
明蘭の実母・衛姨娘は出産後ほどなく亡くなります。
宋代の家族構造を見ても生母を失った庶子は一層立場が弱くなりがちで、
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ほかの側室や使用人に預けられて育つ
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守ってくれる存在がいないまま成長する
という場合も多かったと考えられています。
明蘭が味わう孤独や不安は物語のための誇張ではなく、当時の庶女が味わった現実と重なります。
祖母が孫を育てるのは自然な形
一方で祖母が孫を引き取って育てるのも宋代では珍しくありませんでした。
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実母が亡くなった孫を祖母が保護する
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礼儀や家政の基本、親族間での立ち回りを祖母が教える
といった役割がよく見られます。
盛老太太が明蘭を庇護し礼儀と処世術をみっちり叩き込むのは、史料に見られる宋代の家族像とよく似ています。
婚姻は「家同士の結びつき」
北宋の結婚は基本的に当人同士の恋愛ではなく、家同士の結びつきによって決まるものでした。
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家格や利害関係が最優先
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特に庶女は、家の事情や取引の道具にされやすい
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良縁に恵まれるとは限らない
といった状況の中で、明蘭が「感情よりも自分と家族を守る条件」を重視して婚姻を考えるのは、庶女として当然の自己防衛と言えます。
明蘭の「家政力」は史実的にもあり得る
顧家に嫁いだあと、明蘭は家政の中心として活躍します。これは決してご都合主義ではありません。
北宋の上流階級では、
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夫が役人として外で働く時間が長い
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妻は家の財政・使用人・親族関係の調整を任される
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実務能力の高い妻ほど、家の安定に不可欠な存在となる
という事情がありました。
また物語の後半で描かれる「誥命(こうめい)」明蘭が授かる永嘉郡夫人のような称号は実際の宋代にも存在した制度です。
誥命は
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男性の官位によって妻や母に与えられる名誉称号
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公的に女性の地位を示す役割を持つ
「有能な妻で母」の明蘭は、史実でもあったかもしれない女性像として描かれているのです。
まとめ:明蘭は「史実にはいないが、実在してもおかしくない」
盛明蘭は
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現代女性・姚依依の視点や知恵
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北宋社会の制度(嫡庶制度・家政・婚姻観・誥命など)
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『紅楼夢』の賈迎春を反面教師とした構図
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王熙鳳や趙盼児のような「よくできた家政ヒロイン」像
といった要素が重なって生まれた架空のキャラです。
史料の中に「盛明蘭」という名前は出てきません。でも当時の女性たちの生き方や制度を踏まえて見てみると、
「こういう女性が北宋のどこかにいてもおかしくない」
と思わせるだけのリアリティがあるのです。
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